『すずめの戸締まり』の感想

結論だけ言うと、とても良いファンタジーだった。3回ほど泣いた。新海監督ごめんなさい。

 

以下ネタバレあり。ご注意されたし。

 

 

このあと手のひらをそれはもうきれいに返す予定なので、見る前までの感情は包み隠さずボロクソ言っておこうと思う。

新海誠監督が作っていたこれまでの作品は、美しい風景アニメーションに合わせて曲を流しているMVだなあ、と思っていた。『秒速5cm』、『君の名は。』、『天気の子』、どれをとっても、閉じた世界にいる主人公たちのエゴにまみれたストーリーと、残酷なまでに美しい背景画をマッチさせることがしたいんだろうなーと。

どの主人公たちも鬱屈した思いを抱え、それを爆発させることで行動する。でも、映画を見ている人たちからすると「どうして周りの大人たちは止めないんだろう」としか思えなかった。社会から孤立している(と思っている)少年少女たちのなかに、決定的に孤立しているキャラは1人もいないように見えた。映画を見ている観客はどうがんばっても第三者であり、主人公たちより冷静だから余計、主人公たち以外の無責任感が見える。

少年少女の鬱屈とした感情を自由に発散させるのが大人ではないし、家族でもないし、友人でもない。実はそんな場所はどこにもない。マンガやアニメのなかにもない。実はない。美しい背景と心をリンクさせて、桜が散る風景だったり、見慣れた街並みだったり、雲海の動きだったり、代弁はしてくれるけど決して自由にはなれないはずなのに。そんな無責任なファンタジーをこの規模感でばらまいてほしくない(『竜とそばかすの姫』コナンの『ハロウィンの花嫁』でも思ったが、この映画が社会的な立ち位置がどこで何をもたらそうとしているのか、がとても気になっている)。天気の子でかなり幻滅したので、予告編でも「なあにが看護師ですかまたそうやって女の子のイメージで作って」「またかってに全国巻き込む無責任モノか」と鼻で笑っていたのだった。

 

はい、というわけで、前置きが長かったですが、ここから手のひらを返します。

『すずめの戸締まり』。3.11を背景にして少女の成長を描いた、意味のあるファンタジーだった。人と人の関わりにフォーカスが当たり、それが繰り返されて主人公が成長していく。美しい背景に没頭するだけの人形のような登場人物でなく、現実感があり、そのなかで成長していく。やればできるじゃん!やれなかったのかやらなかったのかわからないけれど、現実味を犠牲にしなくたって、ちゃんとファンタジーはできるじゃないか。しっかり家族を中心として、人間を描けるじゃないか。

主人公を心配するかりそめの家族。主人公が家出の旅をしている途中で出会う人々。その人たちのすべての生活が意味をもっていて、話に主体的に関わっている。どんな人の物語でもそこに自分の考えを持って関わらない人などいないのだから、大衆的になった、とか、主人公の性格がゆがんでない、とかじゃなくて、独りよがりでないストーリーってことだ。

3回も泣き場面に出くわしたので、自己分析のために書いておくと、

・主人公が、行脚の途中で出会った女の子に「あんたのやってることは意味がある、なんか大きいことをやろうとしている」って言われるところ

・主人公と育ての親がけんかして、言い過ぎちゃうところ

・主人公が過去の主人公を救ってあげるところ

きちんと、齟齬を埋めて自分のことを認めて背中を押してくれる人のシーンはきついものがある。

ああ、『天気の子』で諦めてしまわないでよかった。監督に土下座だ土下座。